犯罪者が、自分たちを「有益な存在」だと思い込む精神病理を、 
 実際に起きたこともある「少女監禁事件」を参考にして説明してみよう。   
 児童性愛者の男が、身代金目的でもなく、ただ自己の性欲を満たしたいがためだけの理由で 
 幼女をかどわかし、自らの部屋の中に監禁して、外部との連絡を一切断ち切ってしまう。 
 もちろん少女の親は悲しむし、ただの失踪ではなく監禁事件だと知れば犯人への怒りを募らせるだろうし、 
 無関係の第三者だって犯人を蔑むのは必定。世の中全体が悲しみや怒りや蔑みで埋め尽くされる 
 犯罪行為を行ったことが、犯人に極大なる恐怖心を植え付け、世の中の人々の気持ちを慮る公共的な 
 意識を完全にシャットダウンさせてしまう。この時点で、犯人は自分が「有害な存在」であることを忘れる。 
 さらに、世の中への配慮を捨てたことも加味されて、拉致監禁した幼女という「収穫物」のほうに意識が集中し、 
 幼女のほうも恐怖のあまりストックホルム症候群のようになって、犯人に対する敵対的な感情を萎縮させてしまう。 
 世の中と断絶して自らの快楽を貪る限りにおいて、犯人の欲望は存分に満たされる。 
 「自分が快楽を満たせている→自分は自分にとって有益なことをやっている→自分は有益な存在だ」 
 という、あまりにもおかしな三段論法が犯人の中では成立して、自らを「有益な存在」だとする勘違いが 
 確立される。重罪を犯した自らに対して、激怒し蔑むことが決定的な世の中の側への配慮を捨てたことで、 
 自らが「有害な存在」であるのを忘れた上で、狭量な快楽を貪れている自らを「有益な存在」だとも勘違いする。 
 こうして少女監禁犯の、自らを「有益無害な存在」であると思い込む精神病理は確立される。   
 概ね、犯罪者が自分たちを有益無害な存在だと勘違いする精神病理は、これと同じような成立過程を辿る。 
 取り分け、他者の財物を強奪して自分が生き延びる、犯罪の基本でもある「共食い型」の犯罪行為に 
 手を出した犯罪者の自己正当化は、ほぼこのままとなる。被害者や第三者への配慮を捨て去ることで自らの 
 有害さを忘れ、自らが生き延び楽しめていることを自らの有益さだと思い込む。実際には明らかに有害無益な 
 存在である犯罪者が、自分たちを有益無害な存在だとまで思い込む転倒夢想にも、具体的な成立過程が伴っている。
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