
たとえば、沸出来の刀と匂出来の刀で鍔迫り合いをすれば、 
 沸出来のほうが刃鉄が硬いから、匂出来に競り勝って切り折る可能性が高い。 
 (匂出来が主流の備前刀は実際、太刀や片手打ちの刀が主で、 
  鍔迫り合いをあまり想定していないものが多い)   
 ただ、匂出来の刀は刃鉄が比較的やわい代わりに刀身が柔軟な上、 
 緻密な打ち鍛えで折重ねをよく詰ませることが可能なため、靭性がより高い。 
 国宝の大般若長光も、震災で折れ曲がった所を慎重に修復すれば元通りに戻ったというし、 
 そういう上出来な匂出来の刀で、沸出来の刀の鎬や棟などに強く切りつければ、 
 むしろ匂出来のほうが沸出来を叩き斬れる可能性が高い。(逆だと曲がっても折れない)   
 ただ、「折れず曲がらずよく斬れる」という性能を最上級に達成する可能性があるのは、 
 沸出来でなおかつ地鉄や芯鉄が匂出来並みに高い靭性を獲得している刀であり、 
 正宗や虎徹はこの条件を満たしているとされるため、新古の日本刀の最高峰ともされている。   
 匂出来で美しい波紋の備前刀なども魅力的ではあるが、実用性を見れば多少は譲る。 
 最高級の備前刀は正宗以前のものばかりだから、古さ故の骨董的価値は高いが、 
 実戦を想定するのであればやはり、沸出来の名刀のほうにより憧れるものである。
 返信する