日本刀は鉄鋼製品なのだから、サビの原因になる湿気が大敵のように思われがちだが、
実はむしろ乾燥のほうが大敵である。刀身に塗った油が速く乾いて錆びる原因になるため。
バイオリンやピアノやギターなどの楽器は基本、乾燥状態に置いたほうが良い。
鉄製の金具は極力使わないか、使う場合には防錆塗装やメッキを施すなどしているため、
木材部位の腐朽を防ぐためにも、演奏時の音色のためにも湿気を避けたほうが良いとされる。
どちらのほうが寿命が長いかといえば、圧倒的に日本刀のほうである。
刀は正しく手入れさえし続ければ1000年以上持つが、ピアノは100年未満。
バイオリンやギターはもう少し長いが、どんなに丁寧に保管しても結局木部が朽ちてしまうから、
300年前のストラディヴァリウスなども弾けなくはないが、すでに音色が劣化してしまっているという。
湿気は日本人もあまり好むものではないが、豊かな自然を育む要因ともなる。
中東のような乾燥は緑を絶やす上に、紫外線の透過で細菌すらも殺してしまう。
モンスーン気候の上に、梅雨のような雨季もあれば台風もある、世界でも屈指の
多湿地帯としての日本の環境こそが、鉄製の刀を何百年と錆びさせずに保管する文化をも育んだ。
木造家屋の寿命の短さなどとは裏腹な、文化財全般への物持ちの良さ。
その指針ともなって来た鉄刀保存の風習。面倒なようでも、これもまたあって然るべき手間であった。
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