刀の美しさによって審美眼を育んだからといって、
別に刀以外の何もかもが醜く見えてくるわけではない。
花鳥風月、山川草木のような自然の美しさはやはり普遍的なものだし、
そこにぶつかることなく調和できている人の営みもまた、醜いとまでは言えない。
体の線が出ない着物や大きな笠といった純和風の装束なども、
人体の醜さをうまく隠してそのような美しさに溶け込む配慮があるのだと知れる。
してみれば、そこからの逆算によって、実は美しいわけではないと
バレてしまうものが、美男美女の他にも複数出てくる。
物量投入によって見るものを威圧する大都市のインフラなども、デザイニングに
よっては美しさまでもが謳われるが、決して普遍的な美しさには当たらない。
諸々の工業製品も、全てがワンオフである日本刀と比べれば作りのアラが目立つ。
ことさらに体のラインを強調して性的な魅力をアピールする洋装の美しさなども、
人体の美しさ自体が虚構に過ぎないことに連動してハリボテ扱いとなる。
決して現代人の多くがたやすく賛同できるような美意識ではないだろうが、
少なくとも昔の日本人にとってはごく常識的な感覚だったようである。
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