>>416  「春秋左氏伝」昭公二十六年に、周の霊王には生まれ付き髭があり、 
 その居住まいの厳かさに人々が心服したとある。しかし、霊王本人への個人崇拝が 
 行き過ぎたために、その子孫への崇敬が全く追いつかず、子沢山でありながら 
 実子の多くが殺戮され、本人の死後に諸侯の専横がより強まったという。   
 ヒゲは男にとっての威厳の象徴であり、中国の皇帝なども、それはそれは豊かな 
 長髭を蓄えることが伝統となっていた。ただ、あくまで髭の豊かさなどは外見上の 
 厳かさに過ぎず、髭を蓄えてはいるものの中身が伴っていなかったり、髭の威厳ばかりに 
 頼りすぎて実質を蔑ろにしてしまったりするのでは、せっかくの威厳も台無しになるといえる。   
 日本神話では、スサノオノミコトが「母の国に帰りたい」と、髭や髪が伸び放題に 
 なるまで泣き喚き続け、高天原に挨拶に行けばその姿のままで旺盛に暴れまわり、 
 高天原を追放されるに際して、髭と手足の爪をちゃんと切り揃えられてから追放されたとある。   
 髭と爪を切り揃えて、罪穢れを祓ったとも「古事記」にあるから、明らかに旧約の律法 
 とも相反している記事だといえる。このスサノオ神話の影響もあって、日本人男性は 
 髭を伸ばしたところで、ちゃんと切り揃える習慣を持っている場合がほとんど。 
 おそらく髭を頻繁に整える慣習が、日本の鋭利な刃物文化を育ませる土壌になったとも 
 思われ、これはイスラエルだけでなく、中国にもない、日本に特有の慣習であるといえる。   
 伸ばし放題にした髭の威厳などには頼らないというのも、 
 日本人の編み出した知恵の一つなのかもしれない。
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